自然に抱かれて

「このJRのガードをくぐると、今日漕いでいく先には、橋はありません」先を行くカヌーに乗ったガイドが説明をしてくれる。これから約17キロ、1日がかりで釧路川を下るカヌーの旅のスタートだ。十数年前に四国の四万十川をカヌーで下ってから、ずっと来たかった釧路湿原の中を漕いでいくカヌーの旅の始まりなのだ。

釧路川は両側を釧路湿原に囲まれている。小学校の時に習ったようにやわらかい河岸を侵食して、大きくゆったりとS字にカーブ描いて川は流れているので、漕いでいく先の景色が見えない。だからカーブを曲がるたびに新しい景色が開けてくる。といっても、湿原なのでそんなに急に景色が変わるわけではない。待っているのは北海道の自然の中に生息する動物たちだ。

最初に見つけたのはエゾジカだ。水を飲みに来ているのだろうか、親子なのだろうか、体の大きな2頭と少し小さな1頭が水辺にいた。

次に出会ったのはオジロワシだ。ガイドさんが見つけて教えてくれた。私達のカヌーの上空を、翼を広げて悠々と飛んでいた。

また次のカーブを漕ぎ進めていくと丹頂鶴にであった。今年生まれた子供を連れた親子なのだという。カヌーが近づき過ぎると丹頂鶴の生活を乱してしまうので、見たい気持ちを抑えて、岸部から離れるようにカヌーを操作する。そのうちに飛び立って私達のカヌーを飛び越して行った。ガイドさんが少し興奮したようにいう「今年生まれた子供が初めて飛びました」と。

丹頂鶴は冬に雪や氷の上で群れている写真を見ることが多いせいか渡り鳥のような感じがするが、そうではない。夏の間に産卵、子育てをする上、夏は草木が茂りその陰に隠れるので、あまり見ることができないのでどこかに渡っているように思われるらしい。冬に見ることが多くなるのは草が枯れ、見やすくなるのとえさが少ないので、人がやるえさ場に集まるので見つけやすいからだ。

この旅では他にもキタキツネやサギ等の鳥、さまざまな種類のトンボなどたくさんの生き物に出会った。もちろん湿原に咲く可憐な花や栄養の少ないところに必死に根を伸ばす草木たちなどにも出会った。自然に包まれ、自然に抱かれた1日のカヌーツアーだった。

人間は太古の昔から自然の中で暮らしてきた。もちろんゆったりと温かい自然ばかりではないだろうが、人は自然がないと生きていけないのかもしれない。人工的なものに囲まれ、バーチャルな世界で生きている現代の私達は、時々自然に包まれるような時間が必要なのではないかと思う。そうして、自然からパワーをもらって、また現実に戻って行くのだ。

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